結論:打ち切りは事実。理由は「暗さ」と「作者の意欲の低下」
『どろろ』は、『週刊少年サンデー』(小学館)で1967年8月27日号から連載が始まり、1968年7月21日号で止まりました。手塚治虫公式サイトの説明は「未完のまま中断」です。
止まった理由は、手塚治虫本人が講談社版の漫画全集のあとがきに書いています。本人が挙げた理由は2つです。
- 回を追うごとに話が暗く、生々しくなり、少年週刊誌の漫画としてはマイナスが多くなった
- 別の雑誌で『ノーマン』の新連載が始まり、『どろろ』への意欲が半減した
そこに編集部の要請が重なり、「大急ぎで大団円にしなければなりませんでした」とも書いています。話が少年週刊誌向けではなくなったことと、手塚自身の意欲が落ちたことが重なり、急いで畳んだ、というのが本人の説明です。あとがきはサンデー版の中断と翌年の冒険王版の結末を分けずに書いていて、「大団円」にあたる結末は冒険王版のほうです。
翌1969年には『冒険王』(秋田書店)で続きが描かれ、一応の区切りまでたどり着きました。ただし、主人公の百鬼丸が体を取り戻す旅は終わっていません。公式サイトもこの作品を「未完」としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最初の連載 | 『週刊少年サンデー』1967年8月27日号〜1968年7月21日号 |
| 止まり方 | 未完のまま中断 |
| 本人が挙げた理由 | 話が暗くなりすぎた/『ノーマン』の新連載で意欲が半減した |
| 続きの連載 | 『冒険王』1969年5月号〜10月号(テレビアニメの放送に合わせた第2部) |
| 結末 | 一応の完結。魔物は残ったままで、公式サイトの表記は「未完」 |
| いま読むなら | 手塚治虫文庫全集の全2巻(サンデー版と冒険王版を通しで収録) |
『どろろ』はどんな漫画か
舞台は戦国時代です。戦国武将に仕える侍・醍醐景光(だいごかげみつ)は天下を取るために、生まれてくる我が子の体を48体の魔物に差し出しました。その子は体の48か所が欠けたまま生まれ、川に流されます。
医者に拾われて義手や義足を付けてもらった子は、百鬼丸(ひゃっきまる)と名乗り、旅に出ます。魔物を1匹倒すごとに、奪われた体を1か所ずつ取り戻せます。その旅に、どろろという名の幼い泥棒がついてくる、という話です。
1969年と2019年の2度テレビアニメになり、2007年には実写映画にもなった作品です。
手塚治虫があとがきに書いた理由
手塚治虫公式サイトの『どろろ』のページに、講談社版漫画全集『どろろ』4巻のあとがきが抜粋で載っています。打ち切りの理由について、本人の言葉で読める資料はこれがいちばん確かです。
最初の10回は乗っていた
手塚は、初めのうちは本気でこの作品にのめり込んだと書いています。中世を舞台にした因果応報の時代物という題材に意欲がわき、主人公の2人には「自分ながら惚れぬいた」そうです。
つまり、最初から気乗りしない仕事だったわけではありません。好きで始めた作品が、途中で手に負えなくなっていった、という順序です。
話が暗くなりすぎた
あとがきには、回を追うにしたがってムードが暗くなったとあります。
悲惨な戦国の世の被搾取階級のドラマが、やりきれない暗さを露呈しました。そのうえ、「まいまいおんばの巻」あたりから、生ぐささが加わりました。少年週刊誌の漫画としては、マイナスの要素が多くなってきました。
「被搾取階級」は、武士に奪われる側の農民や孤児のことです。百鬼丸が心を許した少女みおは、世話をしていた孤児たちと一緒に侍に殺されます。どろろの父の火袋(ひぶくろ)も侍に殺され、母のお自夜(おじや)は寒さのなかで亡くなります。妖怪を倒す話のはずが、いちばん残酷なのは人間のほうでした。
「まいまいおんばの巻」は、蛾の妖怪マイマイオンバが人間の女に化けて郷士の鯖目(さばめ)と夫婦になり、卵を産んで一族を増やしていく話です。秘密を知った尼の寺には火が放たれ、孤児たちも殺されます。どこまでを「生ぐささ」と呼んだのかは書かれていませんが、少年週刊誌には重すぎる内容になったことを、手塚自身が認めています。
『ノーマン』の新連載で意欲が半減した
もう1つの理由は、手塚の側の事情です。
そして、まずいことに「ノーマン」の新連載が始まったせいもあって、「どろろ」への意欲も半減して、編集部の要請で、大急ぎで大団円にしなければなりませんでした。
『ノーマン』は、『週刊少年キング』(少年画報社)で1968年4月28日号から連載されたSF漫画です。『どろろ』がサンデーで止まる3か月前に始まっています。サンデーの連載を続けながら別の週刊誌で新しい長編を始め、気持ちがそちらに移ったと、手塚は正直に書いています。
あとがきでは、本当は48体の魔物とのエピソードを残らず描きたかったとも書いています。実際には、残った魔物を全部ひとまとめにした「ぬえ」という怪物を出して「あっさりかたづけてしまった」。手塚はこれを「滑稽にも」と自分で書いています。ただし作中では、ぬえで片づけたあとも魔物は残ったままです。
「妖怪ブームに負けた」説はどこまで本当か
『どろろ』の打ち切りは、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』が火をつけた妖怪ブームと結びつけて語られることがよくあります。妖怪ブームに乗ろうとして後追いで描き、本家に勝てずに終わった、という筋書きです。
この話の出どころは、手塚本人です。同じあとがきの冒頭で、手塚は自分の負けん気の強さを語り、『どろろ』は水木しげるの妖怪もののヒットと、それに続く妖怪ものブームに「あやかって(?)作り上げた、いうなれば、きわもの」だと書いています。
ところが、時期を並べると話が合いません。手塚治虫公式サイトのコラム「手塚マンガ あの日あの時」(黒沢哲哉、2013年)が、次のように整理しています。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1965年8月1日号 | 『週刊少年マガジン』に『墓場の鬼太郎』の読み切りが載り始める |
| 1966〜67年 | 『悪魔くん』のテレビドラマ化で、水木作品の人気が上がり始める |
| 1967年8月27日号 | 『週刊少年サンデー』で『どろろ』の連載開始 |
| 1967年11月12日号 | 『週刊少年マガジン』の『墓場の鬼太郎』が『ゲゲゲの鬼太郎』に改題 |
| 1968年1月 | テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の放送開始。妖怪ブームが本格化 |
| 1968年7月21日号 | 『どろろ』のサンデー連載が中断 |
コラムは、『どろろ』の連載開始が、いわゆる妖怪ブームより半年から1年早かったと書いています。水木作品の人気が出始めたのを見て描き始めたのは手塚本人の言うとおりですが、ブームが本格化する前に始まっていました。
『どろろ』は、妖怪ブームが本格化する前に始まり、ブームが盛り上がっていく最中に止まりました。妖怪漫画として比べられやすい時期だったのは確かですが、手塚自身が中断の理由に挙げたのは話の暗さと自分の意欲のほうで、鬼太郎に負けたとは書いていません。「ブームの頂点に後追いで乗り、本家に勝てずに終わった」という筋書きのうち、後追いの部分は時期が合わず、負けて終わったという部分はどの資料にも書かれていません。
ネットで語られるほかの打ち切り理由
ネットでは、ほかにも打ち切りの理由が語られています。
- 残酷な描写がPTAなどから問題視された
- 雑誌のアンケートで最下位だった
- テレビアニメの視聴率が悪かったから原作も終わった
どれも、手塚本人や手塚プロダクション、当時の編集部の証言として出典が示されたものは見つかりません。3つ目は、サンデー版の中断とは時期が合いません。テレビアニメが始まったのは1969年4月で、サンデーの連載が止まった約9か月後です。冒険王版はアニメとほぼ同時に終わっています。アニメは途中の改題の背景に視聴率の低迷があったとする資料もありますが、それが冒険王版を終わらせた理由だとする出典は見つかりません。
冒険王での再開と、最終回(ネタバレ)
アニメに合わせて描かれた第2部
サンデーで止まった翌年の1969年4月6日、フジテレビ系でテレビアニメ『どろろ』の放送が始まりました。これに合わせて、『冒険王』1969年5月号から第2部の連載が始まります。公式サイトは、この第2部で「一応の完結を見る」と書いています。
アニメは白黒で全26話、1969年9月28日まで放送されました。途中から題名が『どろろと百鬼丸』に変わっています。公式サイトによれば、百鬼丸のほうが活躍の場面が多く、視聴者には主人公が百鬼丸にしか見えなかったからです。冒険王の連載も10月号で終わり、アニメとほぼ同時に終わりました。
原作の結末
最終話では、残った魔物が寄り集まってできた「ぬえ」が現れます。手塚はあとがきで「全部いっしょくたに」したと書いていますが、作中で百鬼丸が仕留めるのはそのうちの何匹かだけです。
そのあと百鬼丸は、どろろと別れて一人で旅立ちます。2019年版アニメの古橋一浩監督も、インタビューで「最後は原作通りにどろろと百鬼丸がそれぞれ旅立ちます」と話しています。魔物はまだ残っていて、百鬼丸の体は戻りきっていません。別れに至るまでの細かい流れは、ここでは書きません。
最終回は「ひどい」のか
駆け足なのは事実です。48体と戦うはずの話が、ぬえでまとめて片づけられ、百鬼丸の旅は途中のまま終わります。手塚本人が「滑稽にも」と書いているくらいなので、ここに不満を感じるのは読み違いではありません。
それでも、話はきちんと閉じています。体を取り戻す旅についてきたどろろと、百鬼丸がそれぞれの道へ進むところで話が閉じます。2人の旅の終わりとしては、最初から積み重ねてきた関係にきちんと区切りがついています。
体を取り戻す話としては未完、百鬼丸とどろろの話としては終わっている。最終回はそう読むのがいちばん正確です。2019年のテレビアニメは、敵の鬼神の数を12体に減らして、原作が描けなかった決着まで描きました。何が違うのかはどろろのアニメと原作の違いで比べています。
打ち切られた『どろろ』はどの版で読めるか
表に挙げた単行本は、どれもサンデー版と冒険王版を合わせて一続きの話にまとめていて、漫画全集の構成に揃っています(古いサンデーコミックス版だけは話の順番が連載時と違います)。連載当時のまま読みたいのでなければ、どの版でも同じ結末まで読めます。
| 版 | 巻数 | 補足 |
|---|---|---|
| 手塚治虫文庫全集(講談社) | 全2巻 | いちばん少ない冊数で通して読める |
| 秋田文庫(秋田書店) | 全3巻 | 漫画全集と同じ構成を3冊に分けたもの |
| 手塚治虫漫画全集(講談社) | 全4巻 | 手塚のあとがきは4巻に収録 |
| 電子版(手塚プロダクション版) | 全4巻 | Kindle Unlimitedの対象は1巻だけ(2026年10月時点) |
| 電子版(カラー版) | 全4巻 | 漫画全集版に色を付けたもの。Kindle Unlimitedの対象は1巻だけ(2026年10月時点) |
最初に読むなら、2冊で終わる手塚治虫文庫全集がいちばん手軽です。文庫全集と漫画全集のどちらで揃えるかは、手塚治虫文庫全集と漫画全集の違いにまとめています。電子版の読み放題で手塚作品を試すなら、手塚治虫のKindle Unlimitedで対象の作品と巻を一覧にしています。
みおの場面のような『どろろ』の暗さが気になった人は、手塚作品のなかで同じくらい重い作品を手塚治虫の怖い作品で順位づけしています。
