ユニコのトラウマは映画・魔法の島へ|手塚治虫のメルモも怖い理由

結論:いちばん怖いのは映画『ユニコ 魔法の島へ』

手塚治虫原作の『ユニコ』と『ふしぎなメルモ』のうち、子供の頃のトラウマとして名前が挙がりやすいのは、1983年の映画『ユニコ 魔法の島へ』です。魔法使いが人間を次々と人形に変え、その人形を部品にして城を作っていきます。

『ふしぎなメルモ』の怖さは種類が違います。第1話で母親が交通事故で死に、幽霊になって娘の前に現れるところから話が始まります。手塚プロダクションが「性教育アニメ」として作った作品で、死や出産を子供向けとは思えないほど正面から描いています。

原作漫画の『ユニコ』と1981年の映画『ユニコ』は、怖いというより寂しい話です。子供の頃の記憶が「怖かった」に寄っているなら、それはたいてい『魔法の島へ』のほうです。

作品怖いと言われる場面怖さの種類
映画『ユニコ 魔法の島へ』(1983年)人間が生き人形にされ、合体して城になる見た目の怖さ。いちばん強い
アニメ『ふしぎなメルモ』(1971年)母親の死と幽霊、人形に入れられた偽のママ、出産死と体の変化を隠さない怖さ
映画『ユニコ』(1981年)男爵に化けた悪魔が少女をさらう怖さより寂しさ
原作漫画『ユニコ』(1976〜1979年)行く先々で記憶を失い、また捨てられる怖さより悲しさ

『ユニコ 魔法の島へ』のトラウマ場面:人間が生き人形にされて城になる

『ユニコ 魔法の島へ』は、サンリオが製作した91分の劇場アニメです。監督と脚本は村野守美で、制作協力はマッドハウス(作画監督は富沢和雄)です。原作は、手塚治虫が劇場用に書き下ろした「ユニコと太陽の王国」です。

主人公のユニコはユニコーンの子供の男の子で、自分を愛してくれた相手のために羽を出して空を飛びます。この映画では、魔法使いククルックと戦います。公式サイトの解説はククルックを「人間を人形に変え、それを部品にした城を作っている魔法使い」と書き、作品紹介で描かれるものの一つに「人形にされてしまう人間たちの悲しみと恐怖」を挙げています。

怖いのは、人形にされる場面が一度では終わらないことです。ククルックの命令で、弟子のトルビーが村人を次々と生き人形に変えていきます。人形たちは列をなして島へ運ばれ、生き人形どうしが合体して巨大な城になります。可愛い絵柄の映画を見に来た子供にとって、これは逃げ場のない映像です。マグミクスの記事も見出しで「絵柄は可愛いけれどトラウマ級」と書いていました。

ククルックの正体も、子供には救いになりません。映画.comなどのあらすじによると、ククルックは人形劇団で悪役を演じていたあやつり人形で、使えなくなって人間に捨てられた過去を持っています。人間を人形に変えるのは、その恨みからです。大人が見れば悲しい悪役ですが、幼い子にとっては「捨てられた人形が仕返しに来る」話として残ります。

この怖さは、手塚治虫の作風から来たものとは言えません。アニメ評論家の小黒祐一郎は、キャラクターの造形や映像の遊びが「いわゆる手塚カラーとは異なったもの」で、作品は「どこかに寂しさがあるフィルム」だと書いています。制作中に手塚が「難色を示していた」と関係者から聞いたこともあるそうです。造形や映像の遊びは監督の村野守美の色で、それが手塚の原作とは違う怖さにつながったと考えるのが自然です。

映画『ユニコ』と原作漫画:怖さより寂しさ

1981年の映画『ユニコ』は、『魔法の島へ』の2年前に公開された1作目です。演出は平田敏夫、脚本は辻真先で、上映時間は90分。原作の漫画から「ほうきにのったネコ」と「ひとりぼっちのユニコ」の2話を選んで映画にしています。

この映画では、神様(漫画ではビーナスにあたる役)の命令で西風の精がユニコを「忘却の丘」の果てへ捨てに行きます。やさしい西風の精は、ユニコを神様の目の届かない所へ逃がします。後半には男爵に化けた悪魔が出てきて、人間の女の子に変身した子猫のチャオをさらいます。悪魔が正体を現す場面は怖いものの、映画全体の印象を決めているのは、ひとりで捨てられるユニコの寂しさのほうです。

原作漫画の『ユニコ』は、サンリオの雑誌『リリカ』で1976年11月号から1979年3月号まで連載されました。美の女神ビーナスが、人間のプシケが自分より美しく人気があるのをねたみ、西風の精ゼフィルスにユニコを遠くへ捨ててくるよう命じるのが話の始まりです。ユニコは行く先々で友だちを作りますが、そのたびに前の記憶をすべて失い、また別の場所へ飛ばされます。

漫画には暗い題材も出てきます。第4話「黒い雨と白い羽」では、少女チコが近くの工場の煙で病気になっています。最終話の「ひとりぼっちのユニコ」で、ビーナスはユニコを「生きもののいない地の果ての国」に捨てるよう命じます。

それでも、漫画を読んで怖いと感じる人は少ないでしょう。手塚自身があとがきで、ユニコは「優等生で良い子すぎます」と書き、連載で「ただひとつ困った」点に挙げています。強い個性の相手役が必要だった、とも振り返っています。子供の頃に読んで残るのは、友だちと仲良くなっても記憶ごと別れてしまう寂しさです。

『ふしぎなメルモ』:母親の死から始まる性教育アニメ

『ふしぎなメルモ』は、1971年10月3日から1972年3月26日まで全26話が放送されたテレビアニメです。放送は日曜18時30分で、公式サイトの表記は「朝日放送系(TBS)」。当時はTBS系列で流れていました。

主人公は女の子のメルモです。公式サイトのあらすじでは、第1話で母親が交通事故で死に、幽霊になって現れた母親がメルモにミラクルキャンディーを渡します。青いキャンディーを食べると10歳年を取り、赤いキャンディーを食べると10歳若返ります。メルモはこのキャンディーで大人になったり赤ん坊になったりしながら、母親のいない家で、2人の弟(トトオと、赤ちゃんのタッチ)と暮らします。

原作は手塚で、第1話の演出も手塚本人でした。子供向けアニメを母親の死と幽霊から始めた回は、手塚自身が手がけています。

怖いと言われる回

公式サイトのあらすじから、怖さにつながる回を拾うと次のとおりです。

回内容
第1話母親が交通事故で死に、幽霊になってキャンディーを渡す
第2話子象に赤いキャンディーを与え、卵にまで戻してしまう
第7話弟のトトオがカエルになり、キャンディーを食べられずに戻れなくなる
第8話帰ってきたママは、蛇の魂を入れられた人形だった
第16話家出したトトオが「死のうと思う」

なかでも第8話「ママがかえって来た!」は、死んだ母親が帰ってきたと思ったら偽物だったという話で、子供が見るにはきつい回です。母親を失った子供の前に、母親の形をした別のものが現れます。人の形をしているのに人ではないものが出てくる点は『魔法の島へ』の人形と似ていますが、こちらは手塚が第1話から関わった作品です。

体の変化と出産の描き方

メルモが怖いと言われるもう一つの理由は、性と体の描き方です。公式サイトは、このアニメが「性教育を単にセックスの話としてではなく生命の尊厳と神秘という大テーマとして取り上げて」いると説明しています。番組の途中には、紙芝居のような性教育の解説も入りました。

第21話では、大人の体になったメルモが赤ん坊に母乳をあげようとして出ず、ホルモンの仕組みが説明されます。第25話では妊娠の仕組みが語られます。最終回の第26話は15年後の話で、大人になったメルモが女の子を産みます。マグミクスの記事によると、病院の分娩室で陣痛に耐える場面が時間をかけて描かれているそうです。

子供の体が一瞬で大人になり、また赤ん坊に戻る場面を、日曜の夕方に毎週見ていたのです。怖い記憶として残っている人がいるのも無理はありません。

怖さは作り手の狙いだったのか

『メルモ』で死や出産を隠さずに描いたのは手塚の狙いどおりで、怖さはその結果として残りました。『ユニコ』の怖さは、原作者の狙いの外から来ています。

『ふしぎなメルモ』は、手塚が「テレビアニメのためにつくった漫画です」とあとがきに書いた作品です。虫プロダクションの社長を辞めて手塚プロダクションを作ったときの「ご祝儀イベント」だったとも書いていますが、手塚プロの設立は1968年で、虫プロの社長を退いた1971年より前です。順序は本人の記憶違いで、公式サイトは、このアニメを手塚プロが制作した最初のテレビアニメシリーズと説明しています。『ふしぎなメルモ』のパイロット・フィルムの題名は「アポロの歌」で、手塚は同名の漫画との共通点を「男女の”性”を扱っているという点だけ」と書いています。

母親の死から始めて出産で終わる構成は、命の始まりと終わりを子供に見せるという手塚の狙いに沿っています。

漫画の『アポロの歌』も性をテーマにした作品で、アポロの歌のドラマと原作の違いで紹介しています。

原作の漫画は、小学館の『小学一年生』で1970年9月号から『ママァちゃん』の題で始まり、1971年10月号で『ふしぎなメルモ』に改題されました。公式サイトは漫画版を「無邪気で優しい物語」と評していて、アニメほどの重さはありません。

『ユニコ』の漫画には、手塚自身が毒の足りなさを認めるほどの優しさがあります。怖いと言われるのは、村野守美が監督した『魔法の島へ』のほうです。同じ『ユニコ』の名前で覚えていても、怖い記憶と優しい記憶は別の作品から来ています。

ほかの手塚作品で、子供の頃に怖かったものと、大人向けの暗い作品群(いわゆる「黒手塚」)の順位は、手塚治虫の怖い作品はどれかでまとめています。

どの版で読めるか・どこで見られるか

漫画はどちらも、講談社の「手塚治虫文庫全集」に全1巻で入っています。値段は税込で、2026年10月28日に確かめたものです。

作品文庫全集(紙)文庫全集(Kindle)手塚プロダクション版(Kindle)
ユニコ全1巻・935円770円全2巻・各297円。第1巻はKindle Unlimitedの対象
ふしぎなメルモ全1巻・1,045円880円297円。Kindle Unlimitedの対象外

Kindle Unlimitedの会員なら、『ユニコ』の手塚プロダクション版第1巻(全2巻のうち前半)を追加料金なしで読めます。全話を1冊で読むなら、文庫全集のKindle版(770円)です。ほかに読み放題で読める手塚作品は手塚治虫のKindle Unlimited対象にまとめました。

映像は、2026年10月時点でdアニメストア(月額660円)で次の作品が見放題です。

  • 映画『ユニコ』(1981年)
  • 映画『ユニコ 魔法の島へ』(1983年)
  • 『ふしぎなメルモ』(1998年のリニューアル版)

2本の映画は、同じ時点でU-NEXTでも見放題になっています。

『ふしぎなメルモ』で配信されているのは、1998年に声と音楽を録り直し、一部の作画も修正したリニューアル版です。1971年の放送ではメルモの声は武藤礼子でしたが、リニューアル版では川村万梨阿に代わっています。1971年の声のままの版は、配信でもソフトでも見当たりません。ほかの手塚アニメの配信先は手塚治虫アニメはどこで見れる?にまとめています。

まとめ

子供の頃に見た『ユニコ』が怖かったなら、その記憶はほぼ確実に1983年の映画『ユニコ 魔法の島へ』です。人間が生き人形にされて城になる場面は、手塚の原作とも1作目の映画とも雰囲気が違います。小黒祐一郎が「手塚カラーとは異なったもの」と書いた、監督・村野守美の造形と映像の遊びが、その違いのもとと考えられます。

『ふしぎなメルモ』は、母親の死で始まり出産で終わる性教育アニメです。怖さは、手塚が命の始まりと終わりを子供に隠さなかった結果として残ったものです。

大人になってから見返すなら、2本の映画とメルモはdアニメストアでまとめて見られます。漫画の『ユニコ』は、怖さを確かめるより、寂しくて優しい話として読むのが向いています。

参考