結論:ピノコは双子の姉の体にあった「できもの」から生まれた
ピノコの正体は、ある女性の体にできた畸形嚢腫(きけいのうしゅ)の中で、手足や内臓がばらばらのまま生きていた少女です。もともとは双子の妹で、生まれる前に姉の体に取り込まれました。ブラック・ジャックがそれを取り出し、足りない部分を合成繊維で補って、人の姿に組み立てています。
年齢は、姉の体の中にいた18年を数えて「18歳」と自称しています。人として数えるなら、ブラック・ジャックの手術の日が0歳です。体は幼児の大きさのまま、原作では最後まで成長しません。
連載の最終話でも、ピノコはブラック・ジャックの家にいます。ブラック・ジャックの夢に大人の女性になったピノコが出てきて、ブラック・ジャックはピノコを自分の「奥さん」だと言います。ピノコが死ぬ話も、家を出ていく話もありません。
ピノコが生まれた「畸形嚢腫」の話
ピノコが初めて登場するのは、第12話「畸形嚢腫」です。『週刊少年チャンピオン』の1974年2月18日号に載りました。
ブラック・ジャックのもとに、体にこぶのある女性が手術を頼みに来ます。こぶの中には、人間の脳と手足と内臓が、ばらばらのまま入っていました。これが双子の妹にあたる畸形嚢腫です。
この嚢腫には意思があり、念力で手術の道具を壊したり、医師の頭に呼びかけて手術を止めさせたりしていました。これまでの病院では、それで摘出に失敗しています。ブラック・ジャックは、取り出しても殺さずに生かすと嚢腫に約束してから手術を始めます。
取り出した中身は、そのままでは人間の形になりません。ブラック・ジャックは足りない部分を補い、女の子の体に組み立てました。念力を使うのは嚢腫だったときだけで、ピノコになってからは使いません。
手塚治虫公式サイトの作品ページも、ピノコを「かつては畸形嚢腫という、双子の姉の体内に取り込まれてできた大きなできものの中でばらばらのまま生きていた少女」と紹介しています。正体についての設定は、最後まで変わりません。
体は合成繊維でできている
ピノコの顔と体は、合成繊維の皮膚で覆われています。この体のせいで、ピノコは生まれつき泳げません。第93話「水とあくたれ」は、泳げないピノコの話です。
顔には作中のモデルがいます。第67話「ふたりのピノコ」で、ブラック・ジャックが医学雑誌に載っていた少女ロミの顔を参考にしたと分かります。ロミは工場の排出物による公害病にかかっていて、この回の中で亡くなります。雑誌に載ったときの題は「緑柱石」で、単行本に入るときに「ふたりのピノコ」に改められました。
第12話と後の話で合わない部分
第12話の終わりでは、組み立てたばかりのピノコがすぐに姉の前に出てきます。ところが、後の第93話では、組み立てた直後のピノコは歩くことさえ命がけで、長いリハビリが必要だったと語られます。
この食い違いを埋めるため、秋田文庫1巻では、姉と対面する場面の前のコマに「一年のち…」というナレーションが足されています。
ピノコの年齢は何歳か
ピノコが「18歳」を名乗るのは、姉の体の中で18年生きていたからです。見た目と中身は幼稚園児くらいで、本人も子ども扱いされると怒ります。
人として生まれ直した日から数えると、ピノコは0歳から始まっています。作中の年齢の書き方は揺れていて、18歳のときと20歳のときがあります。この揺れについて、ピノコ自身が作者のせいにする楽屋落ちの場面まであります。
週刊連載の最終話では、自称が21歳まで増えています。数え方を並べると、次のようになります。
| 数え方 | 初登場(第12話・1974年) | 最終話(第229話・1978年) |
|---|---|---|
| ピノコの自称(嚢腫の年数を含む) | 18歳 | 21歳 |
| 手術で生まれ直してから | 0歳 | 作中で一定しない |
| 見た目と中身 | 幼稚園児くらい | 幼稚園児くらい |
「ピノコは何歳か」と聞かれたら、本人の言い分なら18歳から21歳、人として生きた年数なら0歳から数える、と答えるのが正確です。どちらか一方だけを答えると、もう片方を知っている人には間違いに見えます。
「ピノコ」の名前と口癖
名前の由来はピノキオです。作中でブラック・ジャックがそう話しています。作中で語られるのは由来だけですが、部品を組み立てて作った子どもという点で、木の人形から人間の子になったピノキオとよく重なります。
口癖の「アッチョンブリケ」は、驚いたとき、怒ったとき、感激したときに出る言葉です。決まった意味はありません。第88話「報復」でピノコ本人が「ピノコが作った言葉」だと言っている、とされています。
「シーウーノアラマンチュ」という言葉もあり、こちらは「分かった」「了解」の意味で使われます。
話し方にも癖があります。サ行がタ行に、濁音がラ行に、ラ行がヤ行になるので、「奥さん」は「おくたん」、「レディ」は「レレイ」、「年ごろ」は「としごよ」になります。幼い発音を文字にしたもので、ピノコの台詞は読めば誰のものかすぐ分かります。
ピノコは誰の子か:姉との関係
ピノコに親として名前の出る人物はいません。家族と呼べるのは、体を分けていた双子の姉だけです。
姉は名家の娘で、家柄と世間体を気にして、ピノコを妹として受け入れません。
姉が出てくる話は、第12話のほかに2本あります。
- 第30話「ピノコ生きてる」:ピノコが白血病になり、輸血のために姉が呼ばれる。姉は渋々ながら血を提供する
- 第165話「おとずれた思い出」:記憶をなくした姉がブラック・ジャックのもとで治療を受ける。ピノコと姉は、お互いが姉妹だと気づかないまま仲良く過ごす
「おとずれた思い出」は、姉妹がいちばん姉妹らしく過ごす回です。ところが退院してすぐに記憶が戻ると、姉は逃げるように去っていきます。仲良く過ごした時間があるぶん、ピノコの話の中でも後味が苦く、印象に残ります。ピノコの家族の話を1本だけ読むなら、この回を勧めます。
ブラック・ジャックとの関係
ピノコは自分をブラック・ジャックの「奥さん」だと言い張っています。家事を受け持ち、手術の助手もします。
ブラック・ジャックの側は、ピノコを娘のように扱っています。おみやげの人形に「我が娘ピノコへ」と書いて渡し、ピノコを怒らせた話もあります。奥さんのつもりのピノコと、娘のつもりのブラック・ジャックのすれ違いが、2人の話のお決まりの形です。
助手になったのは、第16話「ピノコ再び」からです。自分ではまともに育てられないと考えたブラック・ジャックは、ピノコを養女に出してしまいます。戻ってきたピノコは、ブラック・ジャックが自分で自分を手術するのを手伝い、それ以来、正式な助手になりました。
ピノコの最後:最終話でどうなるか
週刊連載の最終話は、第229話「人生という名のSL」です。1978年9月18日号に載りました。
この回で、ブラック・ジャックは汽車に乗る夢を見ます。夢の中に、すらりと背の伸びた大人の女性になったピノコが出てきます。ブラック・ジャックはその姿には興味を示さず、いまのピノコを自分の奥さん、それも最高の妻だと言います。
ピノコが何年も言い続けてきた「奥さん」を、ブラック・ジャックが最後に認める形です。
最終話のあとにも読み切りが13本描かれています。作品全体の話数は、手塚治虫公式サイトが全243話、Wikipediaの話数表が全242話と、数え方が分かれています。最後に発表された「オペの順番」まで、ピノコは変わらずブラック・ジャックの家にいます。原作のピノコは死なず、別れもせず、体が大きくなることもありません。
体が成長する話は原作にない
ピノコの体を作り直して大きくする話は、手塚治虫の原作にはありません。
成長したピノコが出てくるのは、ほかの漫画家が描いたリメイク作品です。複数の漫画家が描いた『ブラック・ジャック ALIVE』のうち、田口雅之が担当した話に、成長したピノコの体を作り直す場面があります。別のリメイク『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』(脚本:山石日月、漫画:中山昌亮)には、大人の姿のピノコが登場します。手塚治虫が描いたピノコは、最初から最後まで幼児の体のままです。
ピノコが中心の話と収録巻
ピノコの話を読みたいときは、次の回から選んでください。収録巻は秋田文庫と新装版のものです。
| 話 | どんな話か | 秋田文庫 | 新装版 |
|---|---|---|---|
| 第12話「畸形嚢腫」 | ピノコの誕生 | 1巻 | 1巻 |
| 第13話「ピノコ愛してる」 | ひき逃げにあった少年に、ピノコが自分の腎臓を差し出そうとする | 3巻 | 2巻 |
| 第16話「ピノコ再び」 | 養女に出されたピノコが戻り、正式な助手になる | 17巻 | 2巻 |
| 第30話「ピノコ生きてる」 | 白血病になったピノコに、姉が輸血する | 9巻 | 3巻 |
| 第38話「ピノコ還る!」 | 医師免許が交付される日にピノコが帰らず、ブラック・ジャックは免許より捜索を選ぶ | 10巻 | 3巻 |
| 第67話「ふたりのピノコ」(初出題「緑柱石」) | ピノコの顔のモデルになった少女の話 | 7巻 | 5巻 |
| 第140話「畸形嚢腫パート2」 | 体の部品をそろえた嚢腫を抱えた男性が運び込まれ、ピノコが「人間にしてあげて」と頼む | 13巻 | 10巻 |
| 第165話「おとずれた思い出」 | 記憶をなくした姉とピノコが過ごす | 17巻 | 12巻 |
| 第229話「人生という名のSL」 | 週刊連載の最終話 | 11巻 | 16巻 |
秋田文庫は話の並びが連載の順になっていないので、第16話が17巻に入っているような飛び方をします。描かれた順に追いたいなら、雑誌に載った順に並んでいる手塚治虫文庫全集(全12巻)を選んでください。
「おとずれた思い出」は、新書判の少年チャンピオン・コミックスと講談社の手塚治虫漫画全集には入っていません。古い版で読んでいる人は、この回が抜けていないか確かめてください。
版ごとの収録の違いは、手塚治虫文庫全集と漫画全集の違いで比べています。電子書籍で読む場合のストアの選び方は、手塚治虫の電子書籍はどこで買うべきかにまとめました。
アニメとドラマのピノコ
映像のピノコは、作品ごとに演じる人が違います。主な演者は次のとおりです。
| 作品 | ピノコを演じた人 |
|---|---|
| OVA版、テレビアニメ『ブラック・ジャック』(2004年〜) | 水谷優子 |
| インターネット配信のアニメ版(全12話) | 宇多田ヒカル |
| 実写映画(1977年、宍戸錠主演) | 木島桂子 |
| 実写ドラマ(2000年、本木雅弘主演) | 中山紗央里・中山詩央里 |
| 実写ドラマ(2024年、高橋一生主演) | 永尾柚乃 |
2004年のテレビアニメでは、ピノコの誕生をKarte44で描いていて、本編より4年前の出来事として回想する形になっています。
ブラック・ジャックの無免許の理由や顔の傷の由来は、ブラックジャックはなぜ無免許なのかで答えています。「ピノコ還る!」で免許の話がどうなったかも、そちらに書きました。

