結論:黎明編から読み、次に未来編へ
手塚治虫の『火の鳥』を読む順番は、作者が描いた順(発表順)で、黎明編から読み始めて、次に未来編へ進むのがいちばんです。角川文庫でも手塚治虫文庫全集でも、黎明編が1巻、未来編が2巻なので、買うのは1巻と2巻になります。
黎明編は3世紀の日本、未来編は3404年の地球が舞台です。いきなり3,000年以上も時代が飛びますが、未来編を最後まで読むと、なぜ黎明編を先に読むべきだったのかが分かります。
1冊だけ試したい人は、鳳凰編(両方の版とも4巻)を読んでください。公式サイトもシリーズの中で特に完成度が高い1編としています。各編は単独で完結しているので、鳳凰編から入っても話は分かります。
作中の時代順(時系列順)に並べ替えて読む方法もありますが、こちらは全部読んだあとの2周目向けです。理由はあとで書きます。
『火の鳥』は全部で何編あるか
『火の鳥』は、血を飲むと永遠の命が得られるという火の鳥をめぐって、時代も登場人物も違う話を描いた連作です。1編ごとに話が完結していて、どの編にも火の鳥が出てきます。
手塚治虫は1954年から亡くなる直前の1988年まで、掲載誌を変えながら描き続けました。公式サイトの説明によると、過去と未来を交互に描いて少しずつ現代に近づき、最後に現代を描いて終わる計画だったそうです。現代を描く編は完成しないまま、1988年に連載を終えた太陽編が最後の1編になりました。
いま一般に読まれているのは、1967年に雑誌『COM』で始まった黎明編以降の12編です。
| 編 | 掲載誌と時期 | 作中の時代 | 角川文庫 | 文庫全集 |
|---|---|---|---|---|
| 黎明編 | 『COM』1967年1月〜11月 | 3世紀(ヒミコの時代) | 1巻 | 1巻 |
| 未来編 | 『COM』1967年12月〜1968年9月 | 3404年 | 2巻 | 2巻 |
| ヤマト編 | 『COM』1968年9月〜1969年2月 | 4世紀 | 3巻 | 3巻 |
| 宇宙編 | 『COM』1969年3月〜7月 | 2577年 | 9巻 | 3巻 |
| 鳳凰編 | 『COM』1969年8月〜1970年9月 | 8世紀(奈良時代) | 4巻 | 4巻 |
| 復活編 | 『COM』1970年10月〜1971年9月 | 2482年ほか | 5巻 | 5巻 |
| 羽衣編 | 『COM』1971年10月 | 平安時代 | 5巻 | 5巻 |
| 望郷編 | 『マンガ少年』1976年9月〜1978年3月 | 未来 | 6巻 | 6巻 |
| 乱世編 | 『マンガ少年』1978年4月〜1980年7月 | 12世紀(源平の時代) | 7・8巻 | 7・8巻 |
| 生命編 | 『マンガ少年』1980年8月〜12月 | 22世紀 | 9巻 | 9巻 |
| 異形編 | 『マンガ少年』1981年1月〜4月 | 室町時代 | 3巻 | 9巻 |
| 太陽編 | 『野性時代』1986年1月〜1988年2月 | 7世紀と21世紀 | 10〜12巻 | 10・11巻 |
角川文庫は2018年に出た新装版(全14巻)の巻数です。13巻(ギリシャ・ローマ編)には、1956年から『少女クラブ』に連載したエジプト・ギリシャ・ローマ編と、1954年に『漫画少年』で描かれた最初の黎明編が入っています。どちらも12編より前の旧作で、話は12編とつながっていません。12編を読み終えてから手に取れば十分です。
『COM』時代には、羽衣編の続きとして始まった望郷編と、のちの乱世編とは別の乱世編も描かれましたが、どちらも途中で終わっています。表の望郷編と乱世編は、どちらも『マンガ少年』で描き直したほうです。途中で終わった『COM』版の2編は、角川文庫の14巻(別巻)で読めます。
『火の鳥』の読む順番は3通り
発表順
作者が描いた順に読む方法で、表の上から順に進みます。勧めるのはこの読み方です。
過去(黎明編)、未来(未来編)、過去(ヤマト編)、未来(宇宙編)と、時代が行ったり来たりします。慣れるまでは落ち着きませんが、手塚治虫が描くときに立てた計画どおりの並びです。1編読み終えるたびに過去と未来の両側から現代に近づいていく感覚は、この順番でしか味わえません。
手塚治虫の絵柄と描き方が20年でどう変わったかも、発表順ならそのまま追えます。
公式サイトのコラム(虫ん坊2016年12月号)によると、手塚治虫自身は発表順で読まれることをあまり望んでいなかったようです。それでも最初の1周は、黎明編と未来編で歴史がひと回りする仕掛けを優先して、発表順を勧めます。
時系列順
作中の時代の古い順に並べると、次のようになります。
- 黎明編(3世紀)
- ヤマト編(4世紀)
- 太陽編(7世紀と21世紀)
- 鳳凰編(8世紀)
- 羽衣編(平安時代)
- 乱世編(12世紀)
- 異形編(室町時代)
- 生命編(22世紀)
- 復活編(2482年ほか)
- 宇宙編(2577年)
- 望郷編(未来)
- 未来編(3404年)
歴史の流れに沿って読めるので分かりやすそうに見えますが、最初の1周にはおすすめしません。
ひとつは、太陽編の置き場所が決まらないことです。太陽編は7世紀の日本と21世紀の日本を交互に描いていて、どちらの時代で並べるかは人によって違います。
もうひとつは、未来編が最後に回ってしまうことです。未来編は時代としては最後ですが、作者は2番目に描きました。公式サイトの未来編の紹介には「本作を第一巻のように読むこともできますし、最終巻のように読むこともできます」とあり、全部読んだ人にはもう一度最後に読むことを勧めています。最後に読んでも話は通じますが、黎明編と未来編を続けて読んだときの驚きは薄れます。
先ほどのコラムも、年代順に並べて読むのは「すでにある程度読み込んだ上級者向けの読み方」としています。全部読んだあとに「あの編のあの人物は、ここにつながっていたのか」と確かめる読み方として使ってください。2周目なら、この並びがいちばん楽しめます。
好きな編から
各編は単独で完結しているので、気になる編から読んでもかまいません。歴史ものが好きなら鳳凰編か乱世編、SFが好きなら復活編か宇宙編が入りやすい1編です。
ただし、別の編の人物や出来事が顔を出す場面はあります。とくに復活編に出てくるロボットのロビタは、未来編にも登場します。好きな編から読む場合も、未来編は早めに読んでおくと、ほかの編の未来の場面が分かりやすくなります。
黎明編の次に未来編を読む理由
黎明編は、3世紀の日本で火の鳥の血を求める人々の話です。ここに、大きな鼻を持つ猿田彦(さるたひこ)という男が出てきます。
未来編にも、同じ大きな鼻の猿田博士が出てきます。猿田の一族はこのあとも、ほぼすべての編に顔を出します。最初の2編で猿田が過去と未来の両方にいると分かると、以降の編で猿田が出てくるたびに「今度はこの時代か」と追いかける楽しみが生まれます。
未来編の最後は、黎明編を読んでいるかどうかで受け取り方が大きく変わります。黎明編を読んでから未来編を読むと、2冊で歴史がひと回りする仕掛けがそのまま分かります。
手塚治虫公式サイトのコラム(虫ん坊2016年12月号)は、最初に読む1編として未来編を勧めています。物語の中心になる人物や要素が、未来編にほとんど集まっているからです。未来編から入っても話は分かりますし、全体を早くつかめるのはたしかです。
それでも、黎明編を先に読んだほうが、未来編の最後で受ける驚きは大きくなります。1冊目で全体をつかむより、2冊目で歴史がつながる体験を取ってください。最初は黎明編です。
3冊目からの選び方
未来編のあとも発表順に進むのが基本です。ただ、ヤマト編は笑いの多い軽い話で、黎明編・未来編の直後に読むと物足りなく感じやすい1編です。物足りなければ、先に鳳凰編を読んでください。
鳳凰編は、片目と片腕を失って盗賊になった我王(がおう)と、仏師の茜丸(あかねまる)という2人の生き方を描いた話です。奈良の大仏造りを背景に、2人の立場が入れ替わっていく展開は、シリーズの中でもいちばん読み応えがあります。鳳凰編が合えば、残りの編もまず楽しめます。
好み別の選び方は次のとおりです。
| 好きなもの | 先に読む編 |
|---|---|
| 歴史もの・時代劇 | 鳳凰編→乱世編→異形編 |
| SF・ロボット | 未来編→復活編→宇宙編 |
| 重い人間ドラマ | 鳳凰編→望郷編→太陽編 |
| 怖い話 | 宇宙編→異形編→生命編 |
怖さで選ぶなら、どの編がどうきついのかは手塚治虫の怖い作品はどれかにまとめています。
どの版で読むか
角川文庫と手塚治虫文庫全集の違い
いま新刊で手に入りやすいのは、角川文庫(全14巻)と講談社の手塚治虫文庫全集(全11巻)の2つです。表で見たとおり、1〜2巻、4〜8巻は同じ編が入っていますが、宇宙編と異形編の入っている巻が違います。
- 角川文庫:3巻がヤマト編と異形編、9巻が宇宙編と生命編
- 文庫全集:3巻がヤマト編と宇宙編、9巻が生命編と異形編
発表順に読むなら、宇宙編がヤマト編のすぐあとに来る文庫全集のほうが順番どおりに読めます。角川文庫で発表順に読む場合は、3巻のヤマト編のあとに9巻の宇宙編を挟むことになります。
太陽編は角川文庫で3冊、文庫全集で2冊です。全編を揃える冊数は、文庫全集のほうが少なく済みます。
文庫全集は電子書籍でも出ていて、BOOK☆WALKERなどの電子書店で1巻ずつ買えます。まず1・2巻だけ試すなら、電子版がいちばん手軽です。
版によって中身が少し違う
手塚治虫は、雑誌に載せたあと単行本にするたびに『火の鳥』に手を入れていました。同じ編でも、雑誌に載ったときの形と、いまの文庫で読める形とではコマや台詞が違う箇所があります。
最初に読むなら、角川文庫と文庫全集のどちらでもかまいません。雑誌掲載時の形で読みたい人向けの版もありますが、それは全部読んで気に入ってから探せば十分です。
全集の種類とどちらを買うべきかは、手塚治虫文庫全集と漫画全集の違いで比べています。
まとめ
- 最初は黎明編(1巻)、次に未来編(2巻)。どちらの版でも同じ巻数
- 1冊だけ試すなら鳳凰編(4巻)
- 時系列順は2周目向け。太陽編の置き場所が決まらず、未来編の驚きも薄れる
- 3冊目で止まりそうなら、ヤマト編より先に鳳凰編へ
- 発表順に読むなら、宇宙編がヤマト編と同じ巻にある手塚治虫文庫全集のほうが読みやすい
