手塚治虫のバンパイヤは読む価値あり|悪役ロックと未完の第2部

結論:読む価値はある。目当ては主人公より悪役のロック

手塚治虫の『バンパイヤ』は、いま読んでも面白い作品です。ただし面白さの中心は、狼に変身する主人公のトッペイではなく、トッペイの秘密を利用する少年・間久部緑郎(まくべろくろう)、通称ロックのほうにあります。

ロックは、整った顔で人をだまし、平気で人を殺す少年です。手塚作品には、正義感の強い少年が主人公の話が多いので、ここまで悪い少年が物語を引っぱる作品は多くありません。公式サイトの解説も、強い印象を残すのはロックのほうだと書いています。

物語は2部に分かれていて、第1部は完結しています。第2部は途中で終わったままです。全部読むなら、紙は講談社の手塚治虫文庫全集の2冊で足ります。電子なら、手塚プロダクション版の4冊がいちばん安く済みます。

項目内容
第1部1966年6月〜1967年5月、「週刊少年サンデー」(小学館)に連載。完結
第2部1968年10月号〜1969年4月号、「少年ブック」(集英社)に連載。未完
下敷きシェークスピアの『マクベス』
全部読める版紙なら手塚治虫文庫全集(全2巻)、電子なら手塚プロダクション版(全4巻・計1,320円)が最安
映像版1968〜1969年のテレビドラマ(フジテレビ系、全26話、実写とアニメの合成)

『バンパイヤ』はどんな話か

行方不明の父を探して木曾の山奥から出てきた少年・トッペイ(立花特平)が、アニメ制作会社の虫プロにやってきて、社長の手塚治虫に頼みこんで入社するところから話が始まります。手塚治虫本人が、社長として作中に出てくるわけです。実在の虫プロが1973年に倒産するまでの経緯は、虫プロダクションの倒産理由にまとめています。

トッペイは、怒りを覚えると狼に変身する「バンパイヤ」の一族です。ここでいうバンパイヤは吸血鬼ではなく、動物に変身する人たちのこと。弟のチッペイは、丸いものを見ると狼に変わってしまいます。

その秘密を、ロックに知られてしまいます。ロックはトッペイを脅して、自分の悪だくみの手先に使い始めます。

同じころ、人間にしいたげられてきたバンパイヤたちは、ひそかに「バンパイヤ革命」を起こそうとしていました。トッペイと手塚治虫はそれを止めようとし、ロックは革命さえ自分のために使おうとします。そこに警察も絡んで、トッペイは少しずつ追いつめられていきます。

ロックはどんな悪役か

公式サイトの紹介では、ロックはバンパイヤたちを使って世界の破滅をたくらむ少年で、整った容貌を生かした変装が得意。ずるい手で何人もの人を殺しています。

ロックが怖いのは、見た目が爽やかなことです。手塚治虫は『鉄腕アトム』などで、まっすぐな目をした少年を何度も描いてきました。その絵柄のまま中身だけを悪魔にしたのがロックで、読者が少年の顔を信用してしまうところを、手塚はうまく使っています。

ロックは、手塚が作品ごとに役を割りふる「スターシステム」(同じキャラクターを俳優のように別の作品にも出す手法)の役者のひとりです。もとは少年探偵として登場し、善玉の役が多かったのですが、この『バンパイヤ』で間久部緑郎を演じてから、悪役の印象が強くなりました。ロックがほかにどんな役を演じてきたかは、手塚治虫のロックの出演作と役柄にまとめています。

第1部と第2部はどう終わるのか

第1部は完結。ロックは死んだと思われて終わる

第1部は、バンパイヤ革命とロックのたくらみに決着がついて完結します。講談社の文庫全集2巻の紹介文も、トッペイとロックの2人に「決着の時がおとずれる」と書いています。

公式サイトの第2部のあらすじは、「死んだと思っていた」ロックが実は生きていた、という一文から始まります。第1部の最後で、ロックは死んだと思われる形で姿を消します。どんな場面かは、文庫全集の2巻で確かめてください。

第2部は掲載誌の休刊で途中のまま

第2部では、生きていたロックが台湾の奥地からウェコという動物を連れて日本に戻ってきます。ウェコは動物の血を吸って生きる猫のような姿の動物で、どんな人間にでも化けられます。人間が獣に変わるバンパイヤとは、ちょうど逆です。

ロックはウェコを、檜山財閥の御曹司・ハヤトに化けさせ、檜山家の遺産と会社を乗っ取ろうとします。ところが、ロックが殺したつもりのハヤトは、記憶をなくして生きていました。公式サイトのあらすじはここまでで、その後に「(未完)」とあります。

マンガペディアによると、未完になったのは掲載誌の「少年ブック」が休刊したためです。第2部は、1968年に始まったテレビドラマの放映に合わせて連載されたそうです。

続きを読みたい人のために、手塚治虫の絵を使って別の書き手が完結させた本も出ています。2014年に樹立社から出た『「バンパイヤ」第二部完結編』(江坂遊の編著)です。手塚治虫が描いた続きではないので、そのつもりで手に取ってください。

手塚治虫が『マクベス』を下敷きにした理由

『バンパイヤ』は、シェークスピアの『マクベス』を下敷きにしています。ロックの本名「間久部緑郎」は、マクベスにかけた名前です。『マクベス』で主人公に王になると告げる3人の魔女は、作中ではロックの世界征服を予言する3人の占い師になっています。

手塚治虫は1966年、雑誌『話の特集』に寄せた文章で、この作品について書いています。公式サイトに抜粋が載っていて、シェークスピアは好きだが『マクベス』と『リチャード三世』だけは大嫌いだ、と言っています。それでも使ったのは、「悪とはなにか」というテーマを描くのに使いたかったからだそうです。

同じ文章には、連載が始まってすぐに非難が集まったことも書かれています。「まれにみる駄作! やめちまえ。手塚はもう終わりだ」という読者の声まで引いています。

手塚によると、非難してくるのは高校生以上の古いファンが多かったようです。正義や平和や泣かせ場のある、いつもの手塚らしさを求められているのは分かっているが、それに合わせ続けるとマンネリで終わるのが怖い、と手塚は書いています。子どもの読者についていくには、古いファンを裏切ることになっても変わるしかない、という理屈です。

同じ文章で、手塚は自分にも迷いがあることを隠していません。

『バンパイヤ』は、手塚が迷いながら、いつもの路線から離れようとした作品です。

いま読む価値はあるか

ロックが出てくる場面は、いま読んでも古びていません。人をだます手口が具体的で、次に誰が殺されるのか読めないので、先が気になって一気に読めます。悪役が主役を食う話が好きな人には、まず勧められます。

この作品は、のちの『MW』の原型としても読めます。公式サイトの『MW』の解説によると、手塚は『バンパイヤ』で凶悪な少年を描いたものの、少年誌では描けない表現に限界があり、その悪人を青年誌で描き直したのが『MW』だといいます。『MW』を読んで気に入った人なら、ロックとの違いを比べる楽しみがあります。

一方で、合わない人もいます。

  • 第2部が途中で終わるので、話をきれいに締めくくってほしい人には物足りない
  • 狼への変身やバンパイヤ革命の描き方は1960年代の少年漫画そのもので、ホラーとして怖がりたい人には軽く見える
  • 手塚治虫本人が作中で動き回るので、楽屋落ちの遊びが苦手だと気が散る

それでも、悪役としてのロックがどこから始まったのかを知りたいなら、避けて通れない作品です。ほかにどんな作品から読むか迷っている人は、手塚治虫の漫画おすすめランキングも参考にしてください。怖い作品を探しているなら、手塚治虫の怖い漫画で『MW』を含めて順位をつけています。

どの版で全部読めるか

第1部と第2部をまとめて読むなら、講談社の手塚治虫文庫全集が手軽です。2冊で、第1部と未完の第2部が全部入っています。

版巻数価格中身
手塚治虫文庫全集(講談社・紙)全2巻1巻880円、2巻1,023円(税込)1巻が第1部の前半、2巻が第1部の後半と第2部
手塚治虫文庫全集(電子)全2巻各770円(税込、BookLive)紙と同じ
手塚プロダクション版(電子)全4巻各330円(税込、BookLive)1〜3巻が第1部、4巻が第2部
手塚治虫漫画全集(講談社)全4巻中古が中心1〜3巻が第1部、4巻が第2部

価格は2026年11月5日の時点のものです。

電子で安く読みたいなら、手塚プロダクション版の4冊が合計1,320円で、いちばん安く済みます。紙で手元に置きたいなら、2冊で済む文庫全集です。

文庫全集と漫画全集の違いは手塚治虫漫画全集と文庫全集の違いで、読み放題の対象は手塚治虫はKindle Unlimitedで読めるのかで比べています。

1968年のテレビドラマ版(水谷豊主演)

『バンパイヤ』は、1968年10月から1969年3月まで、フジテレビ系でテレビドラマになっています。白黒で全26話。人間の俳優が演じる実写の場面に、アニメで描いた狼などを重ねる作りで、公式サイトは、日本のテレビではたいへん珍しい試みだったと書いています。

トッペイを演じたのは水谷豊で、俳優としての事実上のデビュー作として知られています。ロックは佐藤博が演じ、手塚治虫は本人役で出演しました。主題歌には「ロックのバラード」もあって、ロック役の佐藤博が歌っています。

終わり方は原作と違います。公式サイトの最終話のあらすじでは、ロックは死に、トッペイたちのまわりにようやく平和が戻ります。原作のロックは死んだと思われたまま第2部で戻ってくるので、ドラマのほうがはっきり決着をつけています。

映像は2002年に、コロムビアミュージックエンタテインメントからDVD-BOXで出ています。2026年10月30日の時点で、定額配信で見られるサービスは見当たらないので、いま見るならDVD-BOXを探すことになります。ほかの手塚アニメの配信先は手塚治虫のアニメはどこで見れる?にまとめています。

参考