結論:Netflix版は浦沢直樹の漫画をほぼそのままアニメにしています
Netflixのアニメ『PLUTO』(2023年)は、浦沢直樹の漫画『PLUTO』全8巻を、全8話でほぼそのまま映像にした作品です。話の筋も結末も漫画と同じで、違うのは細かな場面の省略と、謎を明かす順番の入れ替えくらいです。
大きく違うのは、その漫画と、さらに元になった手塚治虫の『鉄腕アトム』「地上最大のロボット」との間です。手塚版の主人公はアトムで、浦沢版とアニメの主人公はドイツの刑事ロボット、ゲジヒトです。少年誌のロボット対決だった話を、浦沢版は大人向けの連続殺人のサスペンスに作り替えました。
見る価値はあります。漫画を読んだ人は、場面がほとんど削られていないことに驚くはずです。漫画を読んでいない人にとっても、1話1時間前後で全8話なので、8巻を読むより手を付けやすい長さです。
配信はNetflixだけで、2026年10月現在、ほかの配信サービスでは見られません。
『PLUTO』の「原作」は2つある
「PLUTOの原作」と言うとき、指しているものは2つあります。
| 手塚治虫「地上最大のロボット」 | 浦沢直樹『PLUTO』 | Netflixアニメ『PLUTO』 | |
|---|---|---|---|
| 発表 | 雑誌『少年』1964年6月号〜1965年1月号 | 『ビッグコミックオリジナル』2003年〜2009年 | 2023年10月26日から配信 |
| 分量 | 『鉄腕アトム』の中の1エピソード | 全8巻(全65話) | 全8話(1話56〜71分) |
| 主人公 | アトム | ゲジヒト | ゲジヒト |
| 読者・視聴者 | 少年誌の子ども | 青年誌の大人 | 大人 |
| 話の形 | 世界最強のロボット7体を倒しに来るプルートウとの対決 | 世界中で起きるロボットと人間の連続殺人を、刑事が追うサスペンス | 浦沢版と同じ |
手塚治虫が描いた元の話は、『鉄腕アトム』の「史上最大のロボットの巻」です。単行本にするときに「地上最大のロボット」と題名が変わりました。手塚治虫公式サイトによると、同じ『少年』で『アトム』と人気を分け合っていた横山光輝の『鉄人28号』に対抗して描かれた話だそうです。
浦沢直樹の『PLUTO』は、この話を下敷きにしたリメイクです。手塚治虫の長男で、ヴィジュアリストの手塚眞が監修しています。2005年に第9回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受けました。
Netflixのアニメは、この浦沢版のアニメ化です。手塚版をそのままアニメにしたものではありません。
手塚版と浦沢版の違い
主人公がアトムからゲジヒトに
手塚版のゲジヒトは、プルートウに倒される7体のロボットの1体で、脇役にすぎません。
浦沢版は、このゲジヒトを主人公にしました。ゲジヒトはユーロポール(ヨーロッパの警察機構)の刑事ロボットで、世界最高水準のロボットが次々に壊される事件を捜査します。捜査の途中でアトムと出会い、自分も狙われる7体のうちの1体だと知ります。
アトムは浦沢版でも重要な人物ですが、物語の半分以上はゲジヒトの目から描かれます。ゲジヒト自身の記憶に何かが隠されていることも、話の大きな謎になっています。
ロボット対決から連続殺人のサスペンスに
手塚版のプルートウは、最初から姿を見せて、7体のロボットに順番に挑みます。誰が作ったかも早い段階で分かります。
浦沢版では、プルートウの正体が中盤まで分かりません。壊されるのはロボットだけでなく、ロボットの人権を訴える活動家や法学者といった人間も殺されていきます。現場には、被害者の頭に角のようなものを突き立てた跡が残る。ゲジヒトがその犯人を追う、刑事ものの形です。
背景には「第39次中央アジア紛争」という戦争があります。浦沢版の連載が始まった2003年はイラク戦争の年で、この紛争は当時のイラク戦争を映した設定とされています。殺されていくロボットは、どれもこの紛争に関わっていました。
プルートウを作った理由
手塚版のプルートウは、中東の王国の王サルタンの命令で、アブーラ博士が作りました。世界一強いロボットを持ちたいという王の欲がきっかけです。
浦沢版では、プルートウが作られた理由そのものが謎として最後まで引っ張られます。ここは結末に関わるので詳しくは書きませんが、手塚版の「王の欲」よりもずっと重い理由が用意されています。戦争で家族を失った人の憎しみが、物語の中心に置かれました。
浦沢版で加わった人物
浦沢版には、手塚版にいない人物が何人も加わっています。
代表がブラウ1589です。人間を殺した唯一のロボットとして、地下の施設に閉じ込められています。ゲジヒトは捜査のために、この危険なロボットに話を聞きに行きます。映画『羊たちの沈黙』の、刑事が獄中の殺人犯に助言を求める関係に近い人物です。
ほかにも、ゲジヒトの妻ヘレナなど、手塚版にいない人物が話を支えています。
浦沢版とNetflixアニメの違い
全8巻を全8話に
アニメは、漫画の全8巻を全8話で描いています。1話の長さは56〜71分で、テレビアニメの1話(約24分)の2倍以上あります。
企画したプロデューサーの丸山正雄は、最初は劇場映画にすることを考えていたそうです。2年ほどかけて4巻分くらいに縮める案も検討しましたが、まとまらず、漫画をそのままアニメにする方針に切り替えました。GIGAZINEのインタビューでは、ダイジェストにはせず全部やると決めた、と話しています。
Real Soundのインタビューでは、話の筋について「原作を超えたいという意識はありませんでした」と言い切っています。そのかわりに、時系列と登場人物の位置関係を分かりやすくすることに力を入れたそうです。
漫画のファンが心配する「大事な場面が削られていないか」については、心配いりません。ノース2号の回、ゲジヒトの記憶の謎、アトムの話の結末まで、主な場面はそろっています。
省かれた場面と変えられた場面
それでも、細かく見ると違いはあります。海外のゲームメディアGame Rantが、漫画と比べて次の点を挙げています。
| 場面 | 漫画 | アニメ |
|---|---|---|
| 大統領とスーパーコンピューター「Dr.ルーズベルト」の関係 | 2巻(第14話)で明かされる | 最終話まで伏せられる |
| アドルフ家の朝食を作る人 | ロボットのメイド | 妻 |
| 反ロボット団体の装い | とがった頭巾 | 白いマント |
| アドルフの息子がゲジヒトの体の秘密に気づく話 | ある(第18話) | ほぼ省かれる |
| 物語の終盤、ウランが人を助ける場面 | 多い | 減っている |
どれも話の筋を変えるものではありません。とがった頭巾は、アメリカの差別団体を思わせる形だったので、配信先が世界中になるアニメで避けたものと考えられます。
いちばん気になるのは、Dr.ルーズベルトの扱いです。漫画では2巻(第14話)の時点で存在が読者に明かされますが、アニメは最終話まで伏せています。黒幕に近い存在を最後まで隠したことで、アニメのほうが謎解きの緊張が長く続きます。漫画を読み直すと、伏線の張り方の違いが分かって面白いところです。
絵と声が足したもの
アニメが漫画より良くなった点もあります。
アニメ評論家の氷川竜介は、配信だから可能になった1話1時間という形を評価し、「前代未聞の感触」を得たと書いています。テレビの30分枠に合わせて話を切る必要がないので、漫画の間の取り方がそのまま映像になりました。
声優も合っています。ゲジヒトは藤真秀、アトムは日笠陽子、ノース2号は山寺宏一、エプシロンは宮野真守が演じています。ノース2号の回は、戦争でロボットを次々に破壊した過去を持つロボットが、盲目の音楽家のもとでピアノを覚えようとする話です。漫画では音が聞こえない「音楽」の場面に、アニメは実際の曲を付けました。
見る価値があるかの判定
漫画を読んだ人には、2つの理由で勧めます。ひとつは、主な場面が削られていないこと。もうひとつは、ノース2号の回のように、音と声が付いたことで漫画とは違う受け取り方ができる場面があることです。違いを探すつもりで見ると、Dr.ルーズベルトの扱いのように、謎を見せる順番の工夫が分かります。
漫画を読んでいない人は、アニメから入ってかまいません。全8話で合計8時間ほどなので、週末に見終わる長さです。
ただし、明るい話ではありません。戦争、差別、憎しみの連鎖が正面から描かれ、子どもの姿をしたアトムが傷つく場面もあります。手塚版の「地上最大のロボット」のような、アトムが活躍するロボット対決を期待して見ると、重さに戸惑うはずです。
評価も高く、Filmarksの平均は5点満点で4.1(2026年10月2日時点、レビュー約8,600件)です。海外の映画評価サイトRotten Tomatoesでも、観客の評価は94%です(同日時点)。
手塚版と浦沢版の漫画を読むなら
アニメを見て元の話が気になったら、手塚版の「地上最大のロボット」も読んでみてください。浦沢版がどこを残し、どこを作り替えたかがよく分かります。
「地上最大のロボット」は、『鉄腕アトム』の単行本に入っています。『鉄腕アトム』は版が多く、版ごとにエピソードの並びが違います。手塚作品の全集の種類と違いは、手塚治虫文庫全集と漫画全集の違いでまとめています。
浦沢版の『PLUTO』は小学館から全8巻で出ていて、2022年10月からは電子書籍でも読めます。アニメを見たあとに読むなら、Dr.ルーズベルトが出てくる2巻を開いてみてください。アニメとは謎の見せ方が違うのが分かります。
どこで見られるか
Netflixアニメ『PLUTO』は、Netflixの独占配信です。2026年10月2日現在、U-NEXTやAmazonプライム・ビデオなど、ほかの配信サービスでは見られません。
Netflixには無料体験がないので、見るには有料の会員登録が必要です。無料で見られる合法的な方法はありません。
ディスクでは、2024年12月に販売元のジェンコが、全8話を収めたBlu-ray BOXの発売を発表しました。発表の時点では2025年初夏の発売予定、3,000セット限定、税込35,000円で、ブックレットや浦沢直樹監修のソフビフィギュアが付くとされていました。ただし、2026年10月7日の時点で、発売日や販売開始の続報は販売元の告知で確認できていません。買うつもりなら、販売元の最新の告知を確かめてください。
同じ原作者の別の作品で、アニメと原作の違いが気になる人は、リボンヒーローと原作『リボンの騎士』の違いも読んでみてください。

