結論:どろろの2019年版アニメはひどくない。合わないのは後半の作り
手塚治虫の漫画を原作にした2019年のテレビアニメ『どろろ』(全24話)は、「ひどい」と切り捨てる出来ではありません。前半の12話は原作の筋を追いながら丁寧に作られていて、海外の賞も取っています。
「ひどい」と言われる理由をたどると、ほぼ次の3つに行き着きます。
- 主人公の百鬼丸(ひゃっきまる)がほとんどしゃべらない
- 後半は妖怪退治が減り、百鬼丸の家族の話が中心になる
- 最終回の1話に決着を詰め込んでいる
1つ目は最初の数話で慣れます。2つ目は作り手が狙ってやったことで、原作の怪奇ものが好きな人ほど合いません。3つ目は当たっています。
原作の妖怪退治を期待する人には後半が合わず、人間の話として見る人には最後まで見る価値があるアニメです。全24話で話が終わるので、原作を知らなくても置いていかれません。
「ひどい」と言われる3つの点と判定
| 言われていること | 事実か | 判定 |
|---|---|---|
| 百鬼丸がしゃべらない | 事実。前半はほとんど声を出さない | 狙った作り。数話で慣れる |
| 後半は妖怪退治が減り、家族の話になる | 事実。監督も認めている | 原作の怪奇ものが好きな人には合わない |
| 最終回が駆け足 | 事実。最後の1話に決着が集中している | 当たっている |
以下、ひとつずつ見ます。
百鬼丸がしゃべらないのは狙った作り
2019年版の百鬼丸は、生まれたときに体の多くを鬼神に奪われていて、目も耳も声もない状態で旅をしています。原作の百鬼丸も声は出せませんが、テレパシーで口を動かして話しているように見せ、皮肉も言う少年でした。原作から入った人がまず戸惑うのはここです。
監督の古橋一浩は、電撃オンラインのインタビューで「百鬼丸が無垢になることで、必然的に物語の進行手順、構成が変わった」と話しています。百鬼丸がしゃべらないぶん、話の進め役は相棒のどろろに移りました。どろろは子どものこそ泥で、百鬼丸の旅についていきます。
体を取り戻すたびに、百鬼丸は痛みを知り、音を知り、やがて声を出せるようになります。何も感じない状態から始めないと、この変化は描けません。最初の数話は百鬼丸がほとんど反応を見せないので、話の動きが少なく感じます。第5話の終わりで声が戻るあたりから、この作りの意味が分かります。
後半が家族の話になるのは事実
第2クール(第13話以降)に入ると鬼神退治の回が減り、第20話からは醍醐家の3人が話の中心になります。3人とは、百鬼丸の実の父・醍醐景光(だいごかげみつ)、母の縫の方(ぬいのかた)、弟の多宝丸(たほうまる)です。景光は国の繁栄と引き換えに、生まれたばかりの百鬼丸の体を鬼神に差し出した人物です。
古橋監督も「後半、鬼神退治よりも醍醐一家に比重が掛かり、多宝丸、縫の方が軸になった」と認めています。原作の多宝丸は中盤で百鬼丸に斬られて死にますが、アニメでは後半まで生き残り、兄と争い続けます。
ここで評価が分かれます。原作の『どろろ』は、毎回のように違う化け物が出てくる怪奇ものでもありました。それを期待して見ると、後半は戦の話と家族の話が続き、化け物の見せ場が減ったと感じます。
反対に、2019年版は原作で脇役だった多宝丸と縫の方の側の事情まで描きます。国を守りたい多宝丸から見ると、体を取り戻していく兄は国を壊す存在になります。兄弟のどちらにも理屈がある話として見れば、後半はむしろよくできています。
原作との違いを一覧で確かめたい人は、どろろのアニメと原作の違いにまとめています。
最終回が駆け足なのは当たっている
ここから先は、2019年版の最終回に触れます。
最終回の第24話には、次の出来事がまとめて入っています。
- 燃える醍醐の城で、百鬼丸と多宝丸が最後の斬り合いをする
- 多宝丸が負けを認め、百鬼丸の目を返す
- 目を取り戻した百鬼丸が最後の鬼神を斬り、体がすべて戻る
- 多宝丸・縫の方・百鬼丸の育ての親の寿海(じゅかい)が、城の中で亡くなる
- 百鬼丸が父の景光と向き合い、斬らずに去る
- どろろが村人たちと新しい暮らしを始め、百鬼丸が旅に出る
24話かけて積み上げた因縁を、1話でほぼ全部片づけています。3人が亡くなる場面も、景光との対面も、もう1話あれば余裕を持って描けたはずです。「最後が急ぎすぎ」という感想は、この詰め込みを見れば無理もありません。
ただし、終わり方そのものは原作とつながっています。古橋監督は「最後は原作通りにどろろと百鬼丸がそれぞれ旅立ちます」と話していて、2人が別れ、どろろが父の遺志を継ぐ形は原作と同じです。結末の中身は原作どおりで、足りなかったのはそこへ至る時間です。原作の漫画がなぜ途中で終わったのかは、どろろの打ち切り理由で手塚のあとがきから確かめています。
オリジナル回と鬼神の数
原作にない話も入っています。古橋監督によると、完全なオリジナルは第7・8・10・17・19話の5本です。「閑話的な」話と監督自身が呼んでいて、原作を知っている人が「こんな話あったか」と感じるのはこの5本です。このうち第10話は、多宝丸が民のために妖怪退治に出る話で、後半の多宝丸を理解するうえで欠かせません。
鬼神の数も、原作の48体から12体に減っています。監督は「奪われた身体の数を減らしてコンプした印象を持たせた」と説明しています。体をすべて取り戻した、と感じさせるための変更です。12体に絞ったことで、24話の中で体をすべて取り戻す結末まで描けました。
外部の評価
2019年版は、海外で評価されています。米国の配信サービスCrunchyrollが主催する「Crunchyroll Anime Awards」(2020年)では、キャラクターデザインの岩瀧智(いわたき・さとし)が最優秀キャラクターデザイン賞を受けました。放送当時はPrime Videoが日本と海外で独占配信していて、海外の視聴者にも同時に届いていました。
日本のレビューサイトFilmarksでは、7,196件のレビューで平均4.0です(2026年10月26日時点)。5点満点で4.0は、「ひどい」と言われる作品の数字ではありません。
1969年版アニメは第14話から別の番組になる
『どろろ』は1969年にも、虫プロダクションの制作でテレビアニメになっています。フジテレビ系で1969年4月6日から9月28日まで全26話、白黒の作品です。
こちらは途中で作りが変わります。原作の筋を続き物で追うのは第13話までです。第14話から題名が『どろろと百鬼丸』に変わり、一話完結の妖怪退治が中心になりました。手塚治虫公式サイトによると、第14・15・18・19・20・23・25話は原作にないテレビオリジナルの話です。
改題の理由について、公式サイトは「視聴者にはどうしても主人公が百鬼丸にしか見えなかった」ためと説明しています。アニメ研究者の氷川竜介は、手塚がギャグ路線への変更を提案し、それに違和感を覚えた総監督の杉井ギサブローが降板したと書いています。どちらの説明でも、後半が前半と別物になったことは変わりません。
第14話以降は、原作の話をもとにした回とテレビオリジナルの回が混ざります。後半は、当時の子ども向けの怪奇もののつもりで見てください。
2007年の実写映画
2007年には、妻夫木聡が百鬼丸を、柴咲コウがどろろを演じた実写映画も公開されました。監督は塩田明彦です。体の48か所を魔物に奪われる設定は原作と同じです。どろろは原作の子どもではなく、柴咲コウ(当時25歳)が演じる女の盗人として描かれています。
映画は興行収入34.5億円で、2007年の邦画で8位に入りました(日本映画製作者連盟の集計)。興行では成功した映画ですが、原作のどろろが子どもであることにこだわる人には、配役の時点で合いません。
どの『どろろ』を見ればいいか
| 映像版 | 向いている人 |
|---|---|
| 2019年版アニメ(全24話) | 原作を知らない人、最初の1本を探している人。話が最後まで終わる |
| 1969年版アニメ(全26話) | 原作の連載当時の雰囲気を知りたい人。続き物の第13話までが中心 |
| 2007年実写映画 | 俳優で見たい人。どろろを大人の俳優が演じている |
最初に見るなら2019年版です。前半で百鬼丸とどろろの旅に入り込めたら、後半の家族の話も受け止められます。合わなかった場合でも、原作は手塚治虫文庫全集なら全2巻、秋田文庫なら全3巻と短いので、原作で妖怪退治の『どろろ』を確かめられます。ただし原作は連載が途中で止まり、百鬼丸は体をすべて取り戻さないまま終わります。版の選び方は手塚治虫文庫全集と漫画全集の違いで比べています。
原作の暗さが気に入った人は、手塚治虫の怖い作品にほかの作品をまとめています。
2019年版はどこで見られるか
| サービス | 2019年版の配信(2026年10月26日時点) |
|---|---|
| Netflix | 見放題 |
| U-NEXT | 見放題(作品ページの表示) |
| Hulu | 見放題 |
| FOD | 見放題 |
| Prime Video | 本体の見放題には無し。dアニメストアなどのPrime Videoチャンネルを追加すれば視聴可 |
放送当時はPrime Videoの独占配信だったので、「どろろはアマプラで見られる」と書いた古い紹介記事が残っています。いまはPrime Video本体の見放題には入っていません。配信の状況は変わるので、契約の前に各サービスの作品ページで確かめてください。ほかの手塚作品の配信先は手塚治虫のアニメはどこで見られる?にまとめています。1969年版と2007年の実写映画の配信先も、同じ記事で扱っています。
