リボンヒーローが別物に見える理由|原作リボンの騎士との違い

結論:別物という見方で合っています

Netflix『THE RIBBON HERO リボンヒーロー』は、原作『リボンの騎士』でいちばん知られた設定を外しています。男の心と女の心の両方を持つサファイアという、あの設定です。別物だと感じたなら、その見方で正しいです。

そうなった理由もはっきりしています。この映画は原作の映像化ではありません。 Netflixは2026年4月23日の第1報から一貫して「原案:手塚治虫『リボンの騎士』より」と表記しています。原作ではなく原案です。監督の五十嵐祐貴も配信翌日のインタビューで、原作の要素を「オミットして」現実と向き合うヒーローの物語を目指したと述べています。

1967年のTVアニメも話は大きく変えられていました。ただし男の心と女の心という設定は残していました。Netflix版が外したのは、そこです。

判定を先に書きます。原作のサファイアに会いたくて見るなら向きません。原作を知らずにアクション映画として見るなら十分に成立します。

原作から変わったところ

項目原作『リボンの騎士』Netflix『リボンヒーロー』
サファイアの心天使チンクのいたずらで、男の心と女の心の両方を持つこの設定はない。一人称は最後まで「あたし」「私」
男装男性にしか王位継承権がないため、王子として育てられる男の子のふりはしない
戦う理由王女としての立場と、王国のため王国を滅ぼされたうえ、母親からは戦うことを否定される
舞台シルバーランド(なかよし版とアニメ。少女クラブ版は主人公名も国名もサファイヤ表記でサファイヤ国)シルバーランドを災厄ネルガルに奪われ、隣国ゴールドランドへ渡る
物語の軸王位をめぐる陰謀とファンタジー誰かを犠牲にして大勢を救うか、犠牲を避けて世界の滅亡を受け入れるか

サファイアの国を滅ぼすネルガルは、原作にいない存在です。故郷を奪われたサファイアはゴールドランドへ渡り、鉱山でクリスタルを採掘する仕事に就きます。王女としての生活から切り離された状態から物語が始まります。

新しい登場人物も加わりました。ベルベットです。男性でありながら顔立ちは女性のように美しく、衣装は黒いタイツにスカートとピンヒール。原作でサファイアが一人で担っていた性別のゆらぎを、Netflix版ではベルベットが引き受けています。

Netflix版が受け継いだところ

  • 「女の子でも剣を取って戦っていい」という筋。場面を変えて何度も描かれます
  • リボン。原作のリボンにはとくに力はありません。Netflix版ではサファイアに力を与える重要なアイテムになっています
  • ゴールドランドという地名と、悪魔の娘ヘケートの名前。なかよし版とアニメのゴールドランドは隣国で、フランツ・チャーミング王子の国でした

一方で薄くなったものもあります。性別で決められた役割から抜け出すというテーマです。リアルサウンドも、そのテーマは確かに薄いと指摘しています。代わりに置かれたのが、誰かを犠牲にするかどうかの選択でした。ここが賛否の分かれ目になりました。

1967年のTVアニメも原作どおりではありません

『リボンの騎士』は、映像化のたびに話を変えられてきた作品です。

1967年のTVアニメは虫プロダクション製作でフジテレビ系、1967年4月2日から1968年4月7日まで全52話。続きものだった原作をほぼ一話完結にして、後半はクールランド国の雪の女王やX帝国連合軍との戦いが中心になります。サファイアの年齢も15歳から12歳に下げられました。

それでも当時の視聴者は、知っているサファイアに会えました。男の心と女の心を持ち、男性しか王位を継げないために王子として育てられる。1967年版はこの設定を残したうえで、話のほうを変えたからです。

Netflix版が変えたのは、その残した側でした。サファイアという人物そのものが別人になっているので、話だけが違う場合より違和感は強く出ます。別物に見える理由はここにあります。

「炎上」と呼ばれている批判は2つ

報道で確認できる範囲では、批判は2つに分かれます。

ひとつは声の演技です。主人公サファイアを演じるのは、お笑いコンビ「ラランド」のサーヤ。長編作品での声優は初挑戦でした。悪魔の娘ヘケート役には「にじさんじ」の月ノ美兎が起用されています。2026年5月26日に第1弾予告が公開されたあと、声の演技に対する批判が報じられました(日刊ゲンダイDIGITAL・2026年6月4日)。

もうひとつが原作改変への批判で、原作の面影がないという指摘が出ました。

どちらも「炎上」と呼ばれていますが、向いている先が別です。声の演技はキャスティングに対する批判で、予告の段階で出たもの。原作改変のほうは、Netflixが第1報から「原案」と表記しているとおり、最初からの方針に対する批判です。

評価そのものは割れています。ダ・ヴィンチWebは、設定の大きな変更には意義があると評しています。それは大きな挑戦であり、原案への多大なリスペクトにもつながっていたという見方です。

見る価値があるかの判定

原作の『リボンの騎士』をもう一度見たい人には向きません。探しているものが入っていないためです。男の心と女の心という設定も、王子として振る舞う苦しさも、この映画にはありません。

原作を知らずに見るなら、アクション映画として十分に成立します。故郷を奪われた王女が悲しみを振り払って剣を取る筋立てで、動きは速く、見せ方も洗練されています。配信直後の反応でも、まずそこに声が上がりました。

もう一度見るなら、比べる目を一度下ろしたほうが楽です。原作から題材だけを借りた別の映画として見るのが、実態に合っています。

見られるのはNetflixだけです。2026年8月8日から世界独占で配信されています。その後2026年9月4日から2週間限定で劇場でも公開されましたが、上映は終わりました。

原作を読むなら、どの版か

『リボンの騎士』は同じ題で何度も描き直されていて、内容が違います。

バージョン掲載誌連載期間描いた人
少女クラブ版講談社『少女クラブ』1953年1月号〜1956年1月号手塚治虫
なかよし版講談社『なかよし』1963年1月号〜1966年10月号手塚治虫
少女フレンド版講談社『少女フレンド』1967年(24号〜29号とされる)原案:手塚治虫/作画:北野英明

表の3つに加えて、連載時は『リボンの騎士』だった作品がもう1本あります。1958年から1959年に『なかよし』で描かれた続編で、単行本になるときに『双子の騎士』へ改題されました。

最初に読むならなかよし版です。手塚治虫公式サイトも、一般に『リボンの騎士』と言うと本作を指すことが多いと書いています。連載期間が長く、翌年にアニメ化されたためです。文庫全集にも漫画全集にも入っているので、手に入れやすいのもこの版です。

版が違うと中身も変わります。公式サイトの作品データベースでは、少女クラブ版となかよし版が別の作品として登録されています。ヘケートの出自も違い、少女クラブ版では悪魔メフィストの実の娘、なかよし版では魔女ヘル夫人が魔法で造った娘です。

少女フレンド版には別の注意があります。手塚治虫は原案だけで、作画は北野英明です。内容も25世紀の発明家フランツがタイムマシンで先祖のサファイアに会いに行くSFで、ほかの2版と別物になっています。しかもこの版は文庫全集と漫画全集のどちらにも入っていません。2025年6月に立東舎から出た『リボンの騎士 ミッシング・ピーシズ』が初収録です。

なかよし版と少女クラブ版のどちらを買うかは、手塚治虫文庫全集と漫画全集の違い|どちらを買うべきかにまとめています。別物として映画を見たうえで、原作のサファイアに会いたくなったらなかよし版へ。

参考